★男の料理教室

平日の九時台の東村山発西武園行きの車内は大半が競輪客だ。前の座席から聞こえて来る、ハンチング帽の男と黒ジャンパー姿の男の会話が良い味を醸す。双方とも六十歳台後半、もしかすると七十を越えている。
「ひさしぶりだなァ」とハンチング（以下ハ）。「どうしてた？　俺は昨日も来てたけど」とジャンパー（以下ジ）が答える。
ハ「荒れてるの？」
ジ「場外ででかいのが出た」
ハ「俺は昨日は料理教室だよ。女房が私が死んだらあんたは生きてけないっとゆうから、男の料理教室。笑っちゃうだろう」
ジ「良いじゃない」
ハ「昨日は肉じゃがでこの前は味噌汁」

どこかのテレビが男の料理を特集。女性レポーターが某所の料理教室を取材する。インタビューのマイクを向けられたのは何とハンチングだ。「料理が趣味のお爺ちゃんて素敵です」の愛想にハンチングは返す。
「馬鹿言っちゃァいけねェよ、俺の趣味は五十年、ずっと競輪だぜ」
愚にも付かない夢想をした。